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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)1447号 判決 1954年7月02日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人山田半蔵の上告趣意第一点及び被告人の上告趣意第二点について。

論旨は要するに、被告人は本件と同一事実を理由として佐賀弁護士会の懲戒委員会において昭和二五年一一月六日退会命令の処分を受け同年一一月三〇日日本弁護士連合会に異議を申立てたところ、佐賀弁護士会は昭和二六年二月右と同一事実に基いて被告人を告発した末同年四月七日起訴せられ本件第一、二審の判決を受けるに至ったものであって、弁護士会の懲戒処分も刑罰と同様に解し憲法三九条後段所定の一事不再理の原則の適用を受くべきものであるから原判決が被告人を処罰したのは右憲法の規定に違反するものであるというに帰する。しかし憲法三九条後段の規定は何人も同じ犯行について二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険に曝さるべきものではないという根本思想に基く規定であることは当裁判所大法廷判決の判示するところである(昭和二四年新(れ)第二二号、同二五年九月二七日大法廷判決、判例集四巻九号一八〇五頁)。そして弁護士法に規定する懲戒はもとより刑罰ではないのであるから被告人が弁護士法に規定する懲戒処分を受けた後更らに同一事実に基いて刑事訴追を受け有罪判決を言渡されたとしても二重の危険に曝されたものということのできないことは右大法廷判決の趣旨に徴して極めて明らかである。論旨は弁護士法には国家公務員法八五条の如き懲戒と刑罰の両罰を許した規定がないから弁護士法の懲戒処分を刑罰と同様に解し一事不再理の原則を適用すべきであると主張する。しかし懲戒は刑罰ではないのであるから規定の有無にかかわらず懲戒と刑罰とが一事不再理の関係に立つものということはできないのである。されば右と同趣旨に出でた原判決は正当であって論旨は採用できない。

弁護人山田半蔵の上告趣意第二点、第三点及び第四点について。

論旨はいずれも事実誤認の主張であって適法な上告理由にあたらない。

被告人の上告趣意第一点について。

論旨は要するに佐賀弁護士会の本件告発が違法であることを主張するものであるから刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。

被告人の上告趣意第三点について。

論旨は刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。

なお記録を精査するも、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

被告人提出の上告趣意補充申立書は期間経過後の提出であるからこれに対して判断を示さない。

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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